研究紹介


研究に関して

 本研究室では、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound : VOC)と呼ばれる微量ガスを生成する微生物を研究対象としています。VOCは大気中での反応性が高く、対流圏や成層圏オゾン破壊、光化学オキシダント生成、エアロゾルの原因物質、地球温暖化など大気環境に様々な影響を及ぼしています。これらは人間活動(塗料、溶剤、燃料や原油など)だけではなく、海洋、土壌、森林などからも放出されています。
 人為起源の中でも、特に成層圏のオゾン破壊や地球温暖化に関わっていたフロン類は、1987年のモントリオール議定書により規制されて以降、年々減少傾向にあります。そのため、将来的には自然環境から放出されるVOCによる影響が大きくなると考えられています。自然起源のVOCは、森林や土壌から大量に放出されていますが、地球の表面の約7割が海洋であることから、陸域から離れた外洋上の大気を考慮すると、海洋から放出されるVOCは外洋上の大気環境において重要な役割を果たしている可能性があります。VOCの中でも、ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素)を含むものをハロカーボンと呼び、大型藻類や植物プランクトン、バクテリアなどによって生成され、対流圏、成層圏のオゾン分解に関与しています。
 本研究室では、過去に海水中のVOCの調査・研究の不足している外洋での知見を得るため、太平洋赤道域、西部北太平洋、南極海等で現地調査を行い、海水中のVOCの濃度分布を明らかにし、海洋生物種の分布との比較検討から、海洋におけるVOCの生成起源の解明を行ってきました。 現在は、研究室レベルで多くの海洋植物プランクトンや海洋・土壌バクテリアの単離、純粋培養を行い、生成される微量ガスを測定し主要な生成源となり得るの生物種の探索や、生成条件の解明を行っています。

近年の研究テーマ

  • 海洋植物プランクトンによるハロカーボン生成条件の検討
  • 海洋および陸域における新規微生物の単離・培養と、そのハロカーボン生成・分解能の研究
  • 植物プランクトンとバクテリアの共存培養におけるハロカーボン生成能への影響

微量ガスの役割

 海洋由来のVOCにはハロゲン元素(塩素・臭素・ヨウ素)を含んでいるものが多く、大気中に放出されて対流圏や成層圏まで運ばれると、光分解によってハロゲン元素を放出します。この放出されたハロゲン元素は、大気中のオゾンと反応してオゾンを分解します。フロンなどの人為起源のハロゲン化合物が大気中へ放出される以前は、これらの自然起源の微量ガスと、オゾンとの間で均衡がとられてきたと考えられています。
 オゾン層の破壊物質として注目を浴びたフロン類は、モントリオール議定書で使用が規制された後、大気中でのフロンガス濃度の増加が止まり、一部の化合物では減少も観測されています。そのため、今後オゾン層に影響を与えうるのは自然起源の微量ガス放出量の増加、または減少です。 

 オゾン破壊物質として、自然起源の微量ガスの中でも塩化メチル(CH3Cl)、臭化メチル(CH3Br)はオゾン層破壊にそれぞれ12, 11%寄与しているといわれています。 

植物プランクトンの培養

 海洋から放出されるVOCは、昆布のような大型藻類や、植物プランクトンやバクテリアなどの微細藻類が生成していることが報告されています。しかし、これまでに同定・単離培養された海洋植物プランクトンの種と比べると、VOC生成に関して研究された海洋植物プランクトンの種は非常に少ないのが現状です。本研究室では、これまでにVOC生成に関する研究が行われていない植物プランクトンを培養し、VOC生成能を有するかを調べています。また、VOC生成が確認された植物プランクトンは、実際の環境で変動する水温、光の強さ、栄養塩濃度などを変化させて培養実験を行い、生成するVOCの濃度がどのように変化するのかを調べることで、今後、自然環境が変化した際の植物プランクトンによるVOC放出量を見積ることができます。

陸域における新規バクテリアの探索

 森林や畑からのVOC(主にクロロメタンやブロモメタンのようなモノハロメタン類)の放出と、土壌の微生物の関連性が注目されています。本研究室では、土壌や陸上植物、きのこ類などに生息、または付着している微生物に着目しています。実際の自然環境(鎌倉市 広町緑地 了承済み)からサンプルを採取し、VOCを生成するバクテリアを探索し、未知の生成源を明らかにすることを目的としています。採取したサンプルから画線分離培養を行い、バクテリアの単離を行います。ダイナミックヘッドスペース・ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて単離したバクテリアのVOC生成能を調査し、生成能が確認されたバクテリアを16S rRNA系統解析を行い、種の同定をします。



実験装置

 VOCを測定・分析するガスクロマトグラフや、無菌操作を行うためのクリーンベンチ、実験器具を滅菌するためのオートクレーブなどがあります